第2章再会
同じ屋根の下で暮らしていれば、顔を合わせる機会は嫌でも増える。エミリーは彼の望みを満たそうと、できるかぎりのことをした。胸の奥で恋心を静かに育てながら――彼がジョンソン邸に友人たちを招き、パーティーを開いたその日まで。
十代の子どもは些細な変化に敏い。エミリーとデイヴィッドの間に漂う張りつめた空気を彼らはすぐに嗅ぎ取り、エミリーを自然と輪の中に入れた。
その日、ジョンソン邸の屋上で、デイヴィッドはあちこち動き回るエミリーを見て、彼女の腕をつかんだ。
「俺のそばにいろ。あいつらのことは気にしなくていい」
気遣いを見せたのは、数えるほどしかない。エミリーは少し照れながら、彼の手を握り返した。視線が重なった瞬間、二人の間の空気が変わった。息を止めたまま、澄んだ瞳で彼を見返したことを覚えている。
エミリーは醜くなどなかった。太ってしまったのは病気のせいだ。あの日の熱気が、二人をあれほど理性の外へ押し出したのかどうか、今でも確信は持てない。
震える唇が触れ合ったとき、言葉にできない何かに火がつき、頭の中が真っ白になった。
夢中になりすぎて、屋上の扉がかすかに開く音にも気づかなかった。次いで漏れた息を呑む声、信じられないという呻き、罵り。
あの瞬間のデイヴィッドの顔を、リリーは一生忘れない。
嫌悪と憎悪と拒絶がないまぜになり、悪夢から叩き起こされたみたいな――徹底的な屈辱。
その日から、彼女をめぐる噂は「太った子」から「男をたぶらかす尻軽女」へと変わった。デイヴィッドは何も言わず、人々の中傷を放置した。そしてその日を境に、彼はリリーを避けるようになった。
リリーの生活はさらに苦しくなった。もともと病気を理由にいじめていた同級生たちは、「デイヴィッドに触れた」ことまで持ち出して、いっそう執拗に彼女を痛めつけた。学校は息ができない場所になった。
痛みを押し殺しながら、リリーは病院の地下駐車場に車を停めた。
息子の病室に着いても、胸の疼きはまだ引かなかった。
チェイス・マーティンは彼女の不調を察し、小さな手でリリーの手を握って、そっと左右に揺らした。「ママ」と柔らかく呼びかけて慰める。
その一言で、息が詰まる記憶の底から引き戻された。もう思い出したくない。あれは人生でいちばん暗い時期だった。
「今日、大変だった? 番組の予告でパパを見たよ」
成長するにつれ、チェイスはますますデイヴィッドに似てきた。
そんな話題を持ち出すとは思わず、リリーは彼の澄んだ目を見て一瞬言葉を失った。
生まれつき血小板の病気と闘ってきたチェイスは、人生の大半を病院で過ごしている。リリーはデイヴィッドがいない理由をいくつも並べてきたが、それでも父親の不在には敏感だった。
まして去年、チェイスは引き出しの中から、リリーが切り貼りして作った「写真」――彼女とデイヴィッドのコラージュを見つけてしまっている。
「似て見えただけよ、チェイス。ねえ、寝ようか?」リリーはチェイスの額に口づけし、腕の中に抱き寄せた。
チェイスが眠りに落ちて、ようやく少し肩の力が抜けた。リリーは私用の携帯を手に取り、友人のオリヴィア・スミスから届いている大量のメッセージを目にした。
「リリー! また同窓会があるんだって。デイヴィッドとミアも来るらしいよ。行くの? ウィリアムがあなたを探して、私のところにも来た。もちろん何も言ってないけど。決めるのはあなた。でも知りたい! あいつら、あなたが死んだとか平気で言ってたんだよ。今のあなたが大スターで、しかもすごく綺麗だって知ったら、きっと後悔する」
リリーは画面を見つめたまま、小さく首を振った。
エミリーは死んだ。過去に埋めた。噂話の種が尽きたから探しているだけだと思うと、滑稽でしかない。
「それでいいよ。私はチェイスと病院にいる。会いに来て。チェイス、あなたに会いたがってる」
「心配しないで、もうすぐ一緒にいられるから。うちのブランド、次の広告塔を探してるんだ。あなたを推しまくってる。絶対チャンスあるよ」
やり取りをしているうちに、リリーの気持ちは少し軽くなった。
だがオリヴィアは、さらにもう一通送ってきた。「ところでリリー、あの番組であなたとデイヴィッドを見たよ。彼、あなたに気づいた?」
リリーは淡々と返した。「いいえ」
眠りに落ちてもなお、オリヴィアはデイヴィッドを罵っていた。「あの男、当時いったい何なの? 受け入れもしないくせに突き放しもしない、責任から逃げる最低男。私も同窓会に行っていい? チェイスのこと、面と向かって言ってやりたい。あなた一人で背負うことないんだよ」
オリヴィアはいつも外側は強気だが、内側は柔らかかった。チェイスのことを世間に知られるわけにはいかない――それはリリーにとって大きな痛手になり、あのつらい記憶の数々を呼び戻してしまう。
「ところでさ、あんたとジョシュアってどうなってるの? 最初は話題づくりだけだと思ってたのに。なんで一緒に恋愛番組なんか出てるのよ?」
まだ二人が芸能界で無名だったころ、ジョシュアの祖母はチェイスと同じ病室になった。ジョシュアは祖母の世話をする時間がなく、リリーが手を貸した。もう一人増えるだけ、という感覚で。そうして親しくなり、今ではカメラの前では“恋人同士”を演じて注目を集めている。だが内輪では、ふつうの親戚以上に踏み込んだ関係でもあった。
二人は夜更けまで話し込んだ。翌朝リリーが目を覚ますと、マネージャーからサミット・プラザのオフィスに来るよう電話が入った。中へ入ると、同僚のエリザベス・ペレスがうんざりした顔で近づいてくる。
「リリー、ガルシアさんがオフィスで呼んでるわ」
リリーが入室すると、エラ・ガルシアは電話中だった。トップマネージャーとして、彼女はリリーをゼロから育て上げてきた人だ。三十分ほどして電話を切ると、ガルシアは興奮した様子でリリーを見た。
「ついに大きなチャンスが来たわ! 今までの努力が全部報われる。来週、世界的に名の知れた国際モデルのミアと同じステージに立てるのよ。今夜は顔合わせの集まりを開くから、会っておきなさい!」
「心配しないで。チェイスのそばには必ず誰か付ける。あなたに息子がいるって知ったときは、私だって驚いたのよ」
若々しく艶のある顔立ちに、気品のある立ち居振る舞い。リリーは子どもがいる女性というより、大学を卒業したばかりのように見えるのだから無理もない。
「ガルシアさん、わたし……」その名前を耳にしただけで、体が震えた。たった数年で、またミアに会うことになるなんて。
リリーにこんな機会は滅多にない。胸の奥では恐怖と嫌悪が渦巻いているのに、どうやって断ればいいのかが分からなかった。
ホテルはすでに手配が整い、部屋の中はグラスの触れ合う音と賑やかな談笑でざわめいていた。天井のクリスタルシャンデリアは眩しすぎて、リリーは目を開けているのがやっとだ。落ち着こうと、水ばかりを口に運ぶ。
今日は参加者も多く、ジョシュアも誘われていた。エラは早くから入口に立ち、ミアの到着を待っている。
張りつめた空気がリリーの肩にのしかかり、意識がぼんやりしてくる。すると突然、周囲がざわつき、皆が一斉に入口へ視線を向けた。ジョシュアは背伸びして覗き込み、こちらへ手を振った。
「来た! ほら、ミアだよ。スタイル完璧だな!」
リリーが座ったままでいるのを見ると、エラは焦り、赤ワインのグラスを押しつけるように渡して促した。
「相手は先輩よ。礼儀を見せなきゃ」
エラに引きずられるように前へ出ると、そこはすでに混乱していた。リリーは呆けた顔のまま、揉み合う中でワイングラスを持つ腕を誰かにぶつけられた。濃い赤が、緑のドレスの上にどっとこぼれ、胸元からつうっと垂れていく。
一瞬、時間が止まったようだった。リリーの頭は真っ白になり、ドレスの染みに目を落としたまま、反応することさえ忘れていた。
――これで三度目だ。ミアの前で、また恥をさらした。
ミアはその光景を見てくすりと笑った。その笑いが、リリーをさらに追い詰める。こらえた涙で目の縁が赤く染まった。
ミアが歩み寄ると、室内はしんと静まり返った。さっきまでの談笑も、興奮した歓声も、一瞬で消えた。
相変わらず眩い存在だった。周囲の騒がしさをすべて吸い込むように、優雅に視線をさらっていく。長いサテンのドレスは月光のようにきらめき、滑らかで、透けるような肌を際立たせていた。髪は滝のように流れ、ゆるく結われ、数房が肩に落ちている。
ミアの美しさは清く、汚れを知らない。息をのむほど遠く、空に浮かぶもののように、ただ仰ぎ見られるだけで、決して触れてはならない――そんな距離をまとっていた。
エラは気まずそうに口を挟む。
「リリーが少し不器用でして、ウィルソンさん、どうかお気になさらず。でも、その反応を見る限り……彼女のこと、ご存じなんですか?」
